
どちらかが働けなくなったら家計は何ヶ月もつ?就業不能の備えの考え方
この記事の要点
- 漠然とした不安は「片働きに転落したら家計は何ヶ月もつか」という一つの数字に置き換えた瞬間、対処できる課題に変わる。
- 会社員・公務員は一般に、傷病手当金で給与のおよそ3分の2が支給開始から通算1年6ヶ月を目安に支えられるとされる。自営業・フリーランスにはこの土台が原則ないとされる点に注意。
- 生活防衛資金は「生活費の◯ヶ月分」ではなく、片働き月の赤字額×もたせたい月数で逆算すると実態に合う。
- 就業不能保険には60日・180日などの免責期間があるとされ、短期ではなく「傷病手当金が切れた後半」を埋める道具と位置づけるのが実態に近い。
- 共働きの構造的な強みは「最悪でも片働き」で止まること。備えるべきは収入ゼロではなく差額×期間であり、必要量は世帯ごとに大きく異なる。
備えるべきは収入ゼロではなく「差額×期間」——不安を測れる数字に変えた瞬間、備えは「足りているか」を確認できる作業になります。
「もし明日、どちらかが倒れたら」——不安の正体
共働きの家計は、二つのエンジンで飛ぶ飛行機に例えられます。片方が止まっても、すぐに墜落はしない。それでも「もしどちらかが働けなくなったら」という想像は、夜中にふと胸をよぎるものです。
この不安が消えないのは、リスクが大きいからというより、一度も測ったことがないからである場合が少なくありません。住宅ローン、教育費、いまの生活水準——守りたいものが多い世帯ほど、漠然としたまま置かれた不安は重くなります。
そこで本稿では、傷病手当金・生活防衛資金・就業不能保険という性格の異なる三つの備えを、「片働きに転落したら家計は何ヶ月もつか」という一つの物差しに載せ替えて整理していきます。
物差しを一本にする——「もつ月数」の出し方
最初にやることは、保険のパンフレットを開くことではありません。自分の世帯の数字を二つ出すことです。一つは片働き月の赤字額。どちらか一方の手取りだけになった月、残る収入から固定費と生活費を引いて、いくら足りないか。もう一つは、すぐに引き出せる預貯金——いわゆる生活防衛資金の残高です。
この二つがそろえば、素のもつ月数=生活防衛資金÷片働き月の赤字額という単純な割り算ができます。たとえば月20万円の赤字で預貯金が240万円なら、何も備えがなくても12ヶ月は持ちこたえられる計算になります。
あとはこの「素の月数」に、公的保障と民間保険がそれぞれ何ヶ月を上乗せしてくれるのかを、順番に足していくだけです。
※割合は一例です。住居費の重い都市部などでは配分が変わります。世帯の事情に合わせて調整を。
第一の層——傷病手当金という土台
会社員や公務員が病気やけがで働けなくなった場合、一般に健康保険から傷病手当金が支給されるとされます。金額は給与(標準報酬月額)のおよそ3分の2が目安で、支給開始から通算1年6ヶ月が上限とされています。
「もつ月数」の物差しで見ると、これは最初の約18ヶ月、赤字額を大きく圧縮してくれる層です。収入の3分の2が残るなら、片働きへの転落というより「7〜8割働き」への転落で済む世帯も多いはずです。健康保険組合によっては付加給付でさらに手厚い場合もあるとされ、勤務先の制度確認は備えの第一歩といえます。
注意したいのは、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には、原則としてこの仕組みがないとされる点です。夫婦のどちらかが独立している世帯は、「その人が倒れたときだけ土台が抜ける」という非対称を前提に設計する必要があります。なお、障害が長く残る場合には障害年金という別の公的制度もあります。
第二の層——生活防衛資金は「時間を買う現金」
生活防衛資金の役割は、利回りではなく時間です。傷病手当金の申請から入金までの空白、想定外の医療関連支出、そして「焦って復職や転職の判断を誤らないための余白」。それらを現金で買っている、と捉えると必要額の議論がしやすくなります。
備えの目的は不安を消すことではなく、冷静に判断するための時間を確保することです。
一般には生活費の3〜6ヶ月分が目安と言われますが、この物差しでは「片働き月の赤字額×もたせたい月数」で逆算するほうが実態に合います。傷病手当金で赤字が小さく済む会社員同士の世帯と、土台のないフリーランスを含む世帯とでは、同じ年収でも必要な厚みがまったく違うからです。
第三の層——就業不能保険は「後半」を埋める道具
就業不能保険は、働けない状態が続く間、毎月一定額を受け取れる民間保険です。押さえておきたいのは、多くの商品に60日や180日といった免責期間が設けられているとされること。つまりこの保険は短期の穴を塞ぐものではなく、傷病手当金が切れる1年6ヶ月以降や、療養が長期化した場合の後半戦を埋める道具だと位置づけるのが、実態に近い設計です。
検討する際に確認したい点は三つあります。精神疾患が支払い対象か(対象外や支払月数に上限がある商品もあるとされます)、就労が部分的に可能な状態をどう扱うか、そして住宅ローンの団信に付けた就業不能系の特約と重複していないか。保障内容は商品ごとの差が大きいため、最終的な選定はFPなど専門家への相談をおすすめします。

三つの層を一本の時間軸に並べる
ここまでの三つを、働けなくなった日からの時間軸に並べ直すと、次のようになります。
| 期間(目安) | 主に支える層 | 家計の状態 |
|---|---|---|
| 発症〜数ヶ月 | 生活防衛資金(+有給休暇・傷病手当金) | 手続きと初期対応の期間。現金が判断の余白をつくる |
| 〜1年6ヶ月ごろ | 傷病手当金+残る側の収入 | 会社員なら収入の約3分の2が目安で続くとされる |
| 1年6ヶ月以降 | 就業不能保険・障害年金+貯蓄 | 公的な土台が細る局面。民間保険の主戦場はここ |
こうして並べると、共働き世帯の構造的な強みは「最悪でも片働き」で止まることだと分かります。裏を返せば、備えるべきは収入ゼロではなく「差額×期間」。だからこそ全世帯一律の正解はなく、自分の赤字額と素の月数から積み上げる意味があるのです。
まとめ
「どちらかが働けなくなったら」という漠然とした不安は、片働き月の赤字額と手元資金から「もつ月数」を出した瞬間、確認と改善ができる課題に変わります。
順番は三段です。①素のもつ月数を知る、②傷病手当金など公的保障の有無と厚みを確認する、③それでも足りない期間を、貯蓄の積み増しと就業不能保険で埋める。とくに自営業・フリーランスを含む世帯は、公的な土台の非対称に注意が必要です。
本稿の数字はいずれも一般的な目安です。制度の詳細は加入している健康保険組合や公的機関の窓口で、保険の設計はFPなど専門家に確認しながら、わが家の「もつ月数」を一度、夫婦で言葉にしてみてください。数字になった不安は、もう漠然とはしていません。
「もつ月数」の棚卸しチェックリスト
- どちらか一方の手取りだけになった月の世帯収支を試算し、「片働き月の赤字額」を出す
- 生活防衛資金の残高を赤字額で割り、「素のもつ月数」を夫婦で共有する
- 勤務先の健康保険の傷病手当金と付加給付の有無・内容を確認する(自営業側は土台がない前提で考える)
- 住宅ローンの団信に就業不能系の特約が付いていないか、条件とあわせて確認する
- 就業不能保険を検討する場合は、免責期間・精神疾患の扱い・支払条件を複数商品で比較する
- 最終的な必要額と商品選びは、FPなど専門家に相談して確認する
よくある質問
生活防衛資金は何ヶ月分あれば安心ですか?
一般には生活費の3〜6ヶ月分が目安と言われますが、共働き世帯では「片働き月の赤字額×もたせたい月数」で逆算するほうが実態に合うとされます。傷病手当金の対象かどうか、固定費の重さで必要額は大きく変わるため、最終的にはFPなど専門家に相談して確認するのが安心です。
共働きなら就業不能保険は不要ですか?
一概には言えません。残る側の収入で固定費を賄えるか、倒れる可能性のある側が傷病手当金の対象か(会社員か自営業か)で結論が変わります。公的保障と貯蓄で「もつ月数」が十分なら優先度は下がり、足りない期間が長く残るなら検討価値がある、というのが一般的な整理です。
夫婦の一方がフリーランスの場合、何に注意すべきですか?
自営業・フリーランスが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金がないとされます。その人が働けなくなった場合だけ公的な土台が抜けるため、貯蓄を厚めにする・就業不能保険の検討順位を上げるなど、非対称を前提にした設計が必要とされます。詳細は公的窓口や専門家にご確認ください。
精神疾患で働けなくなった場合も就業不能保険の対象になりますか?
商品によって扱いが大きく異なるとされます。対象外の商品もあれば、支払月数に上限を設けて対象とする商品もあるとされるため、約款の確認が欠かせません。就業不能の原因として精神疾患は少なくないとされるだけに、比較検討の際は専門家に相談しながら確認することをおすすめします。
文・編集/世帯白書 編集部 ・ 監修:準備中(公開時に有資格者を明記します)