
医療費控除とセルフメディケーション、共働き世帯はどちらの名義で得か
この記事の要点
- 医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用で、同じ人が両方を使うことはできないとされます。
- 控除を受けられるのは実際に支払った人が原則。生計を一にする家族の分は合算できるとされます。
- どちらも所得控除のため、一般に所得税率が高い側に寄せるほうが減税額が大きくなりやすい構造です。
- 妊活・通院で医療費がかさむ世帯は、通院交通費の計上や保険金など補填額の差し引きで結果が変わり得ます。
- 夫婦がそれぞれ別の制度を使う「分ける」形も一般に可能とされますが、支払いの実態が前提です。
寄せるか分けるかを決めるのは名義の損得ではなく、支払いの実態と、二人の税率と、下限ラインの位置関係——その三つだけです。
レシートの束を前に、手が止まる
妊活の通院、子どもの急な発熱、ドラッグストアでの買い置き。気づけば一年分の領収書がかなりの厚みになっている——そんな年の瀬に、ふと迷いが生まれます。「この医療費、夫と妻、どちらの名義で申告するのが得なのだろう」と。
共働きで二人とも所得があるからこその迷いです。片働き世帯なら考える余地はほとんどありませんが、二つの財布と二つの税率がある世帯では、同じ支出でも申告の仕方によって戻る金額が変わり得ます。損はしたくない。けれど制度は複雑で、比較する時間もない。この記事では、その迷いを一般論として静かに整理します。
二つの制度は「選択適用」——まず構造を知る
医療費に関わる所得控除には、大きく二つの入り口があります。一般に、医療費控除は年間の医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超えた部分を所得から差し引ける制度、セルフメディケーション税制は対象となる市販薬(OTC医薬品)の購入費が年間1万2,000円を超えた部分を控除できる特例とされます。
| 医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
|---|---|---|
| 対象 | 治療のための医療費全般 | 対象マークのある市販薬の購入費 |
| 下限の目安 | 年10万円超(または総所得の5%超) | 年1万2,000円超 |
| 控除額の上限 | 200万円 | 8万8,000円 |
| 主な要件 | 明細書を添えて確定申告 | 健康診断・予防接種など一定の取組 |
重要なのは、この二つは同じ人が併用できない「選択適用」とされている点です。通院が多かった年は医療費控除、市販薬中心の年はセルフメディケーション税制——まずはこの選択が土台になります。
※掛金上限・税率・家族構成・他の控除で大きく変動します。実額はシミュレーションでご確認ください。
大前提は「支払った人が控除を受ける」
名義の話に入る前に、動かせない原則があります。一般に、控除を受けられるのはその医療費を実際に支払った人とされます。そのうえで、生計を一にする配偶者や家族のために支払った分は、支払った人の側で合算できるとされています。
共働きで財布が別の世帯では、ここが曖昧になりがちです。妻の通院費を妻のカードで払い、子どもの薬は夫が払う——そんな日常の積み重ねの中で、「どちらが支払ったか」の整理がついていないと、そもそも寄せる・分けるの設計以前の問題になります。家計の実態がどう扱われるかは個別性が高いため、迷う場合は税務署や税理士に確認するのが安全です。
「所得が高い側に寄せる」が基本線とされる理由
両制度とも税額控除ではなく所得控除です。減税額のおおまかな目安は「控除額 × (所得税率 + 住民税率約10%)」とされます。所得税は累進課税のため、同じ控除額でも、税率の高い人が申告したほうが戻りは大きくなりやすい——これが「所得が高い側に寄せる」が一般に基本線とされる理由です。
控除は「得な方を選ぶ」前に、「支払いの実態」の上に成り立つもの。その前提を整えたうえで、税率の高い側に寄せるのが基本線とされます。
ただし例外もあります。総所得200万円未満の側であれば、10万円ではなく総所得の5%が足切りラインになるため、所得が低い側で申告したほうが控除額そのものが大きくなるケースがあり得ます。また、住宅ローン控除やふるさと納税との兼ね合いで結果が変わることもあるため、世帯全体での試算が欠かせません。
妊活・通院で医療費がかさむ世帯の整理術
不妊治療は2022年4月から体外受精などが保険適用となり、自己負担の構造が変わりました。一般に、治療のために支払った費用は保険診療の自己負担分を含めて医療費控除の対象とされ、通院のための公共交通機関の交通費も対象になり得るとされます。細かな積み重ねが、10万円のラインを超えるかどうかを左右します。
一方で、高額療養費や民間保険の給付金など補填された金額は、その対象となった医療費から差し引くのが原則とされます。「支払総額は大きいのに、差し引いたら思ったより残らなかった」ということも起こり得るため、まず補填額を確定させてから試算する順番が大切です。
医療費がかさむ年は、家族分を合算して税率の高い側に寄せることで控除額が最大化しやすい——これが一般的な整理です。ただし対象になる費用・ならない費用の線引きは個別判断を要するため、最終的には国税庁の情報や税理士への相談で確かめてください。

「分ける」が選択肢になる場面
同じ人が両制度を併用することはできませんが、夫婦がそれぞれ別の制度を使うことは一般に可能とされます。たとえば、通院費がかさんだ側が自分の支払った医療費で医療費控除を、市販薬の購入が多かったもう一方が対象OTC医薬品の分でセルフメディケーション税制を申告する、という組み合わせです。
この「分ける」設計が意味を持つのは、通院費と市販薬費の両方がそれぞれの下限を超えている場合です。全部を一人に寄せると、選択適用のためどちらか一方の制度しか使えず、もう一方の支出が控除に生かせないことがあります。逆に、医療費が10万円前後にとどまる年は、分けると双方が足切りに届かない恐れもあります。寄せるか分けるかは、金額と下限ラインの位置関係で決まる——ここが判断の芯です。あくまで各自が実際に支払った費用が対象とされる点は、忘れずに。
まとめ
医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用であり、控除は支払った人が受けるのが原則。そのうえで、一般には所得税率の高い側に合算して寄せるのが基本線、通院費と市販薬費の両方が育っている年は夫婦で制度を分ける形も選択肢になり得る——これが本記事の骨子です。
妊活や通院で医療費がかさむ時期は、心にも家計にも負荷がかかります。だからこそ、レシートを仕分けて補填額を差し引き、二つの税率で試算するという静かな作業が、確かな数千円・数万円の差になって返ってきます。制度の適用可否や個別の判断は、国税庁の情報を確認し、必要に応じて税務署・税理士・FPなどの専門家に相談してください。
申告前に整える実践チェックリスト
- 一年分の医療費の領収書と医療費通知を家族分まとめて集約する
- 対象マークのあるOTC医薬品のレシートを医療費とは分けて保管する
- 高額療養費や民間保険の給付金など、補填された金額を確定させて差し引く
- 夫婦それぞれの所得税率の目安を確認し、「寄せる」「分ける」の両パターンで試算する
- 住宅ローン控除やふるさと納税など、他の控除との兼ね合いを確認する
- 対象費用の線引きに迷ったら、税務署や税理士に確認してから申告する
よくある質問
夫婦で医療費控除とセルフメディケーション税制を使い分けられますか?
一般に、同じ人が両制度を併用することはできませんが、夫婦がそれぞれ別の制度を申告することは可能とされます。ただし対象になるのは各自が実際に支払った費用が原則です。個別の可否は税務署や税理士にご確認ください。
医療費は夫婦で合算できますか?
一般に、生計を一にする家族のために支払った医療費は合算でき、実際に支払った人が控除を受けるのが原則とされます。財布が別の世帯では支払いの実態の整理が前提になるため、迷う場合は専門家への確認が安心です。
不妊治療の費用は医療費控除の対象になりますか?
一般に、治療のために支払った費用は保険診療の自己負担分を含めて対象とされ、通院のための公共交通機関の交通費も含まれ得るとされます。一方、保険給付などで補填された分は差し引くのが原則です。個別判断は国税庁の情報や税理士にご確認ください。
医療費が10万円を超えない年は何もできませんか?
総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得の5%が目安のラインとされます。また、対象OTC医薬品の購入が年1万2,000円を超えていれば、セルフメディケーション税制が選択肢になり得ます。要件の詳細は公的機関の情報でご確認ください。
文・編集/世帯白書 編集部 ・ 監修:準備中(公開時に有資格者を明記します)