介護・ダブルケアのイメージ

介護・ダブルケア

親の判断力が落ちる前に、お金の管理を整える方法

この記事の要点

  • 親が認知症と診断された後では、たとえ実の子でも親の口座から大きなお金を動かせなくなる。間に合うのは、親がまだ自分で契約を理解できるうちだけ。
  • 備えは4つ。手軽さなら銀行の代理人サービス、不動産や承継まで絡むなら家族信託。任意後見は「誰に任せるか」を自分で指名できる。財産目録の共有はゼロ円で今日できる。一つに絞らず重ねるのが正解。
  • 最初にやるべきは制度選びではない。親の財産がどこにいくらあるかを一覧にすること。これが固まれば、どの制度がいくら必要かは自ずと見える。
  • 家族信託や任意後見を自己流で組むのは危険。設計次第で課税関係が変わる。最初から司法書士・弁護士に相談したほうが結局安く済む。
「まだ元気だから、その話はもっと先でいい」——そう思っている今こそが、実は唯一の打てる時期なのだ。

「口座が凍結される」とは、具体的に何が起きるのか

誤解されがちだが、認知症と診断された瞬間に口座が止まるわけではない。実際に詰まるのは、家族が窓口でまとまった手続きをしようとした瞬間だ。銀行の担当者が「ご本人の意思が確認できません」と判断すると、その場で取引が止まる。定期預金の解約、数百万円の引き出し、実家の売却、施設入居の一時金。こういう「いざという時の大きな金」ほど、見事に止まる。

銀行が冷たいわけではない。本人の財産を本人以外が勝手に動かさせない、というのが大原則だからだ。実の子だろうと例外はない。その結果、「親の介護費用が、ほかでもない親の口座に眠っているのに、一円も引き出せない」という、いちばん笑えない状況が生まれる。施設の支払いは待ってくれないのに、だ。

ここが肝心なところ。判断能力が大きく落ちてしまうと、選べる手が一気に消える。このあと紹介する家族信託も任意後見も、どちらも本人が契約の中身を理解できる状態でなければ結べない。「まだ元気だから、その話はもっと先でいい」——そう思っている今こそが、実は唯一の打てる時期なのだ。

在宅介護の月額費用の内訳(目安)
在宅介護でかかる月額費用の内訳(目安・レンジ)01234(月額・万円)介護サービス自己負担1.6〜3.2万円福祉用具・住宅改修0.4〜1.0万円医療・薬0.5〜1.5万円生活雑費・おむつ等0.6〜1.4万円月額合計の目安おおむね 3〜7万円/月

※要介護度・所得・地域・サービス内容で大きく変わります。自己負担割合もご確認ください。

判断能力が落ちた後に残るのは、ほぼ法定後見だけ

何の備えもないまま判断能力が落ちてしまったら、家族に残る道はほぼ一本、「法定後見」になる。家庭裁判所に申し立てて、本人を支える後見人を選んでもらう仕組みだ。財産を守るという目的は果たせる。ただし、知らずに飛び込むと「こんなはずでは」となる特徴が三つある。

  • 後見人を選ぶのは家庭裁判所であって、家族ではない。「長男の私がやります」と希望しても、弁護士や司法書士といった専門職が選ばれることがある。
  • 後見人の仕事は本人の財産を守ること。だから「孫の入学金に充てたい」「家族へ生前贈与したい」といった柔軟な使い方は、基本できない。本人のためにならない支出は通らない。
  • 専門職が後見人になれば、本人が亡くなるまで毎年報酬が出ていくのが普通だ。財産額にもよるが、年数十万円が十年続けば、相応の額になる。

つまり法定後見は「困り果ててからの最後の受け皿」だ。家庭の都合に合わせてお金を回す道具ではない。柔軟さや本人の意向を残したいなら、元気なうちに自分で設計しておくしかない。後からでは選べない、ここを外さないでほしい。

元気なうちに選べる、4つの備え

事前の対策は、性格がまるで違う4つに分かれる。目的・できること・費用の目安で並べた。費用は事案でかなり振れるので、ざっくりした相場として見てほしい。

手段主な目的できること費用感の目安
銀行の代理人サービス日常の入出金を家族が代行あらかじめ届け出た家族が、生活費・医療費などの引き出しを代行低い(多くは無料〜少額)
任意後見判断力低下後の生活・財産の保護信頼する人を将来の後見人として契約で決めておく。発効後は家裁が監督中程度(公正証書作成費+発効後の監督報酬)
家族信託財産の管理・承継を家族に託す不動産を含む財産の管理・運用・処分を家族に任せ、承継先まで設計可能やや高い(初期設計費が中心)
財産目録の共有そもそもの「見える化」口座・保険・不動産などを一覧化し、家族が把握できる状態にするほぼ不要

銀行の代理人サービス——まず押さえる、軽い一手

多くの銀行で、本人が前もって届け出た家族を「代理人」として登録し、日常の引き出しを任せられる。手続きが軽く、費用もほぼかからない。これは真っ先に押さえておきたい。ただし守備範囲は生活費や医療費くらいまで。実家の売却や、まとまった資産の組み替えには手が届かない。中身は銀行ごとにまちまちなので、親が実際に使っている取引銀行で直接確認するのが確実だ。ネットで調べた他行のルールを当てにしないこと。

任意後見——「誰に任せるか」を自分で指名する

任意後見の核心は一点に尽きる。判断能力があるうちに「将来もし衰えたら、この人に支えてほしい」と、信頼できる相手を自分で指名しておけることだ。契約は公正証書で作る。実際に動き出すのは判断能力が落ちた後で、その時は家庭裁判所が選ぶ監督人が後見人を見張る役に回る。後見人を自分で選べる——これが、裁判所任せの法定後見との決定的な違いだ。生活と財産を守るのは得意だが、信託のように積極的に資産を運用したり、承継先まで描いたりするのは守備範囲外と割り切ったほうがいい。

家族信託——管理と承継を一本で設計する

家族信託は、親(委託者)が信頼する家族(受託者)に、財産の管理・運用・処分を託す仕組みだ。強みは二つ。実家を売る、賃貸物件を回すといった不動産まで含めて柔軟に動かせること。そして「最終的に誰へ渡すか」という承継まで一本の契約で描けることだ。自由度が高い分、契約の設計には専門知識が要り、初期費用も4つの中ではいちばん張る。財産が大きい、不動産がある、「この土地は次男へ」といった承継の希望がはっきりしている——このどれかに当てはまる家庭なら、検討する価値は十分ある。逆に預金だけの身軽な世帯には、ここまで重い装備は要らないことが多い。

財産目録の共有——すべての出発点

制度より前に、いちばん効くのが「見える化」だ。どの銀行にいくらあるか。保険や証券は。不動産や、隠れた借金はないか。これが家族に共有されていないと、いざという時に打つ手そのものが見えない。逆に全体像さえ握っていれば、どの制度がどれだけ必要かの判断は驚くほど楽になる。費用ゼロ、今日始められる。順番として、まずここから手をつけるのが正解だ。

わが家はどれを選ぶべきか——判断の軸

選び方は「どれが優れているか」では決まらない。「何を守りたいか」で決まる。次の問いに順に答えていけば、自然と絞れる。

  1. 守りたいのは日常の引き出しか、資産全体か。 心配が生活費の入出金だけなら、代理人サービスで足りることもある。実家や大きな資産が絡むなら、任意後見か家族信託に踏み込む必要がある。
  2. 柔軟に動かしたいか、堅く守りたいか。 家族の事情に合わせて機動的に動かしたいなら家族信託。とにかく本人保護が最優先なら任意後見。
  3. 承継の希望がはっきりしているか。 「この財産は最終的にこの子へ」という意向があるなら、そこまで描ける家族信託が本命になる。
  4. かけられるコストと手間。 まず軽く始めたいなら代理人サービスと財産目録。腰を据えて備えるなら任意後見・家族信託だ。

結論から言えば、一つに絞る必要はない。むしろ重ねるのが現実解だ。「財産目録を家族で共有しつつ、日常は代理人サービス、実家と大きな資産は家族信託で」——こう組み合わせる家庭が多い。それぞれ守備範囲が違うのだから、補い合わせればいい。

通帳と書類を一緒に整理する親子の手元
通帳と書類を一緒に整理する親子の手元

今日から始める、5つのステップ

気の重いテーマだ。だが一度に全部を決める必要はない。順に踏めば、負担はぐっと軽くなる。

  1. 親の財産の全体像をつかむ。 口座・保険・証券・不動産・借金を一覧にする。通帳と保険証券がどこにしまってあるかを確認するだけでも、立派な前進だ。
  2. 「どうしたいか」を親と話す。 制度の話より先に、誰に任せたいか、何を大事にしたいか、本人の希望を聞く。元気なうちのこの一回の会話が、すべての土台になる。先送りした分だけ、聞ける窓は狭くなる。
  3. 心配の中心を一つ特定する。 日常の引き出しか、実家の処分か、承継か。どこが怖いのかが分かれば、必要な手段は自ずと絞れる。
  4. 軽い備えを先に片づける。 取引銀行に代理人サービスがあるか確認し、財産目録を家族で共有する。ここまでは一円もかけずに進む。
  5. 必要に応じて専門家に頼む。 任意後見や家族信託は設計が命だ。司法書士・弁護士、家族信託に明るい専門家、銀行の相談窓口に、家庭の事情をそのまま伝えて設計を依頼する。ここはケチらないほうがいい。

住まいや相続が絡むなら、お金まわりの全体像を一度棚卸ししておくと、後の判断がぶれない。現状の整理に迷ったら、無料診断で見える化してから専門家のドアを叩く、という順番も使える。

注意しておきたいこと

家族信託も任意後見も、契約の中身次第で税務・法務の扱いが変わる。とくに信託は設計を一つ誤ると課税関係がややこしくなることがあり、ネットの雛形を真似た自己流は本気で危ない。そして繰り返すが、どちらも本人が契約の中身を理解できる判断能力があることが大前提だ。診断が下りてからでは、選べる手が法定後見一本に細る。この一点だけは、何度でも心に刻んでおいてほしい。

本記事は2024〜2025年時点の一般的な内容です。最新の取り扱い、税務・法務の判断は、公式情報および司法書士・弁護士・税理士などの専門家へ必ずご確認ください。判断能力や健康に関する記述は一般的な情報であり、医師の診断に代わるものではありません。

備えの本質は、立派な制度を入れること自体ではない。「親が何を望み、財産がどこに、どれだけあるか」を、家族が落ち着いて話せる関係を、元気なうちに作っておくこと。制度は、その希望を形にするための道具にすぎない。

判断力が落ちる前に、今日から踏む5ステップ

  • 口座・保険・証券・不動産・借金を一覧にし、通帳と保険証券の保管場所を確認する
  • 制度の話より先に、誰に任せたいか・何を大事にしたいか、親本人の希望を聞く
  • 日常の引き出しか、実家の処分か、承継か——心配の中心を一つに絞り込む
  • 取引銀行に代理人サービスがあるか確認し、財産目録を家族で共有する
  • 任意後見や家族信託は司法書士・弁護士など専門家に設計を依頼する

よくある質問

親が認知症になると銀行口座は本当に凍結されてしまうのですか。

金融機関が口座名義人の判断能力低下を把握した場合、本人保護の観点から取引が制限されることがあります。生活費や医療費の引き出しに支障が出る前に、家族信託や代理人指定などの備えを検討されると安心です。具体的な扱いは金融機関により異なるため、取引先へのご確認をおすすめします。

判断力が落ちる前にできる、お金の管理の備えにはどのようなものがありますか。

代表的なものに、任意後見契約、家族信託、金融機関の代理人サービス、財産目録の作成などがあります。元気なうちに本人の意思で選べる点が大きな利点です。それぞれ費用や効力が異なりますので、最新の内容は公式情報や専門家へご確認のうえ、ご家庭に合う方法をお選びください。

成年後見制度と家族信託は、どのように使い分ければよいのでしょうか。

一般に、成年後見は判断力が低下した後の財産保護と身上保護を、家族信託は元気なうちに資産の管理や承継の方針を柔軟に設計することを得意とします。両者は併用も可能です。費用や手続きの負担も含め、最新は専門家へ確認のうえご判断ください。

親とお金の話を切り出すのに、家族はどう向き合えばよいですか。

資産額の開示を急ぐより、まず通帳や保険の保管場所、かかりつけ医など「もしもの時に困らない情報」の共有から始めると、本人も受け入れやすい傾向があります。親の意思を尊重し、複数の家族で情報を共有しておくことが、後の負担軽減につながります。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の法務・税務・投資・医療上の助言ではありません。税率・控除・限度額・助成などの制度は改正により変わります。最新かつ正確な情報は公式機関の発表や専門家へのご確認をお願いします。

文・編集/世帯白書 編集部 ・ 監修:準備中(公開時に有資格者を明記します)

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